完全自動運転が実用化にいたるまでの課題とは?
この数年、「自動運転」に関する話題が、にわかに注目されるようになっています。実際、すでに完全自動運転の前段階の技術は実用化され、国内では政府がその推進を後押ししています。ここでは、自動運転とはどのようなもので、今後、完全な自動運転が普及するにはどのような課題があるのかを解説します。
自動運転の段階
「自動運転システム」には、レベル設定があることをご存知でしょうか。乗車した人は何もせず、車がすべての運転操作を行ってくれるものが自動運転であると想像しがちですが、実際にはそこへ至るまでに、いくつかの段階が存在します。
日本では「官民ITS構想・ロードマップ2016」で、米国運輸省NHTSAの定義を踏まえた自動運転レベルの定義が記述されています。このロードマップは、より詳細な定義づけのための検討や、情報のアップデートが行われています。ここでは、そのレベルについてご紹介しましょう。
まず、自動運転システムのレベルは、おおまかに以下のような4つに分かれます。
レベル1
加速(アクセル)、操舵(ステアリング)、制動(ブレーキ)のいずれかひとつを担う、部分的な自動化
レベル2
レベル1で挙げられた操作を複合的に自動化したもの
レベル3
原則として全ての運転操作を自動運転システムが行うが、緊急時などは運転者が対応するもの
レベル4
全ての運転操作を自動運転システムが行い、運転者はシステムに関与しないもの
このことから、レベル1と2は自動運転システムによる安全運転支援(半自動運転)、レベル3と4は、「自動運転」と聞いて思い浮かべることの多い、完全自動運転と言えます。
実用化している自動運転
自動運転は、まだまだ未来の技術のように感じられますが、すでに実用化に漕ぎ着けているものもあります。例えば、CMなどでよく見かける衝突被害軽減ブレーキは、自動運転のレベル1や2に属する技術です。
この他、アメリカのシリコンバレーを拠点とする自動車メーカーは、自社の電気自動車に、運転支援機能ソフトウェアを導入しています。また、別の海外自動車メーカーは新モデルの高級車に、先行車と一定距離を保ちながら加減速する自動追従機能を搭載。この他に、高速道路で車線の中央を維持しながら、方向指示器を押すだけで車線変更を行うこともできるレベル2の自動運転を実用化しています。
日本では、同一車線自動運転技術を開発し、ミニバンに搭載した車種が登場しています。先行車への追従、高速道路での車線中央維持機能、駐車時の自動ハンドル制御などを実現し、ユーザーからの高い評価も得ています。
なお、これらはすべて2016年に発売された車であることから、自動運転はすでに身近なものであり、今後も普及することが予想されます。
これからの自動運転の課題
安倍晋三首相は自動運転について、2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催までに自動運転による移動サービスを可能にすることを目標に掲げ、2017年までに必要なインフラを整備すると、正式に表明しています。
実際にレベル3、4の自動運転の実用化に向けた官民一体の努力が行われていますが、まだ課題もあります。技術的な面では、想定外の障害、予測不能な事象が発生したときに、人間なら経験則によって、とっさの行動で切り抜けるような部分を、自動運転システムがどのように実現するかというのが大きな課題です。
これに関しては通常のプログラムでは対処が難しく、大きな進化が期待される人工知能(AI)技術による事故回避システムが役立つでしょう。また、自動車だけでなく、道路、コンピュータネットワークなどのインフラを自動運転システム対応のものに変えていくことも必要です。
これ以外に、道路交通法、事故が起きたときの刑事・民事上の扱いをどうするかという法律的課題もあります。運転者が必要のない自動運転が実現したとして、その場合に事故が起きたら誰が責任を負うのかという新しい視点による法整備を行わなければならないでしょう。もちろん、自動運転によって交通事故が減少しなければ意味がありませんが、それでもこれまでとは異なる新しいタイプの事故や問題が発生する可能性もあります。
自動運転は、ごく近い未来に現実のものになるとされている技術です。特に今後、車に関わる仕事に就きたいと考えている人は、自動運転実用化に向けた課題がどのようにしてクリアされていくのか、その動向を注視すべきでしょう。
参考資料:
首相官邸「官民 ITS 構想・ロードマップ 2016」